

特定の個人を対象にして非営利目的で行われる信託のことを、民事信託(家族信託)といいます。
民事信託は認知症の親の財産管理から障害を持つ子への継続的なサポート、さらには事業の承継計画に至るまで、幅広く活用できる制度です。
この記事では、民事信託がどのように機能し、どのようなメリットがあるのか、また民事信託に潜むリスクなどを詳しく掘り下げていきます。
家族の未来を安心して託せるこの制度について、深く理解を深めていきましょう。
民事信託とは
民事信託とは営利を目的としない信託契約で、家族間など特定の個人の間で行われるものです。
主に財産の管理や保護、資産の承継といった目的で利用されます。
民事信託は、受託者(財産を管理する人)が営利目的でないことが特徴であり、信託契約においては、財産の所有者(委託者)が他の家族(受託者)に財産管理を委ねる形をとります。
委託者、受託者、受益者
- 委託者
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財産を持っている人。財産を信託に託す人物であり、信託を設立する主体となります。
- 受託者
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財産の管理を任される人。委託者から財産を託され、それを管理・運用する責任があります。
- 受益者
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信託財産から生じる利益を受ける人。
民事信託と家族信託、商事信託の違い
- 民事信託と家族信託
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実質的に同じものであり、家族内や親しい個人間で財産の管理や承継を行うために用いられます。
用語の使用は業界や文脈によって異なることがあり、一般的に弁護士は「民事信託」、司法書士は「家族信託」と呼ぶことが多いです。 - 民事信託と商事信託
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商事信託は営利を目的とし、主に信託銀行や信託会社が受託者となります。
これに対し、民事信託は非営利目的で、家族など個人が受託者となる点が大きな違いです。
民事信託のメリット
親の認知症対策や財産管理ができる
認知症などで判断能力が低下した親の財産を、信託を通じて子どもが管理することが可能です。
これにより、財産の不正利用を防ぎ、親の生活費用や医療費などに安心して充てることができます。
遺言の代替
民事信託は遺言のように財産の帰属先を指定できます。
委託者がなくなると信託は終了し、残った信託財産は受託者のものとなります。
そのため、生前に自分の意思で決めた相手に、財産を受け継がせることが出来ます。
障害を持つ子のサポート
障害を持つ子どもがいる家庭では、親が亡くなった後も子どもの生活を支援するために財産を信託しておくことが可能です。これにより、子どもの将来の生活資金を確保できます。
三世代にわたる財産の継承
遺言書などでは、自分が死んだ際の遺産相続しか指定はできません。
その点、民事信託なら3世代先の承継先まで指定することが可能です。
長期にわたる財産の継承計画を立てれば、不動産などの財産を安定して次世代に渡すことができます。
企業の事業承継
中小企業の経営者が認知症になるリスクに備え、事業の株式を信託して、スムーズに事業承継ができます。
これにより、企業の存続と発展が保証されます。
このように民事信託は家族内での財産管理と承継をサポートする効果的な手段となっています。
特に高齢化社会において、認知症対策としての財産管理や、障害を持つ家族のサポートなど、多様なニーズに応じた柔軟な対策が可能です。
民事信託の活用事例
認知症の親を持つ家族
民事信託は、認知症の親の財産管理のために使われることが多くあります。
例えば、認知症になった父親が所有する不動産などの財産を息子に信託します。
信託契約により、息子は預金の管理や不動産の管理・売却が行え、父親の医療費用や介護費用などに適切に財産を使うことができます。
子供のいない夫婦の財産管理
子供のいない夫婦にとって、民事信託は財産の承継計画を立てる際の選択肢となります。
例えば、夫が亡くなった後に妻が受益者となり、その後妻が亡くなった際には信託財産が夫の兄弟に渡るよう設定することができます。
これにより、夫婦の意向に沿った財産の管理と承継ができます。
企業の事業継承計画
民事信託は、企業の事業継承計画においても活用されます。
特に中小企業の経営者が認知症になった場合、事業を滞りなく継続するためには迅速な対策が必要です。
経営者が自身の株式を信託財産として設定し、子供や信頼できる後継者を受託者に指名することで、スムーズな事業の承継が可能となります。
適民事信託の手順
民事信託は法的に複雑であり、正しい理解と適切な運用が必要です。
まずは信託に詳しい弁護士や司法書士と相談し、自分のニーズや目的に合った信託の形を検討しましょう。この段階で、他の選択肢も含めた総合的なアドバイスを受けることが大切です。
専門家との相談を経て、民事信託に関する契約書を作成します。
この契約書は、後々のトラブルを避けるためにも、詳細に内容を定めることが重要です。
必要に応じて、契約書を公正証書にすることで、公的な効力を持たせることもできます。
不動産を信託財産とする場合は、所有権移転登記と信託登記を行う必要があります。
これにより、不動産が信託財産であることが客覽的に明らかになります。
登記は複雑な手続きが伴うため、司法書士に依頼することが一般的ですをお勧めします。
信託された金銭を管理するために、信託専用の銀行口座(信託口座)を開設します。
これにより、信託財産が正しく管理され、不正利用されるリスクを防ぐことができます。
信託口座は特定の金融機関でのみ取り扱いがあるため、事前にどの銀行で開設できるか確認しましょう。
民事信託に潜むリスクとその対策
民事信託は、老後の財産管理や認知症対策、事業承継など、多様なニーズに対応できる便利な制度です。
しかし、適切な知識や対策がなければ、様々なリスクが生じる可能性があります。
考えられる主なリスクとその対策を事前に把握しておきましょう。
リスクの認識不足
民事信託のメカニズムや法的な影響を十分に理解しないまま利用してしまうと、将来的に予期しない問題や家族間の争いに発展することがあります。
対策方法
◆信託を設定する前に、専門家(弁護士や司法書士)に相談を行う。
◆具体的な事例をもとに、信託のメリットとリスクを丁寧に検討する。
家族間のコミュニケーション不足
信託契約を結ぶ際、全ての関係者が同意の上で進めることが重要です。
情報共有の不足が原因で、家族間でトラブルに発展…というケースも少なくありません。
対策方法
◆家族会議を定期的に開催し、信託の内容について全員が理解し合うよう努める。
◆受益者や受託者の選定に際して、公平性を保つためのルールを設ける。
不適切な受託者の選定
信託が成功するかどうかは、受託者によって大きく左右されます。
受託者の選定ミスは、信託財産の不適切な管理や、最悪の場合、財産の損失につながります。
対策方法
◆受託者を選定する際は、その候補者の財務知識や倫理観、過去の行動パターンを徹底的に調査する。
◆可能であれば、受託者としてプロの信託会社や銀行を検討する。
税務上の誤解
民事信託は受益者や受益権の中身によって課税関係や課税金額が変わります。
誤った認識で信託を行うと高額な贈与税や登録免許税がかかってしまう場合があります。
対策方法
◆信託設定前に税理士と相談し、予想される税金の影響を事前にチェックする。
◆信託契約書に税務処理に関する具体的な条項を設ける。
便利な民事信託ですが、間違った使い方をすると思わぬトラブルを起こしかねません。
リスクと対策をしっかり理解し、安全に民事信託を利用しましょう。
まとめ
民事信託は、多様なニーズに対応する柔軟かつ便利な財産管理の方法です。しかし、正しい設定・運用を行うためには、専門家の知識と協力が不可欠。
信頼できる専門家を見つけることが、民事信託を成功させる鍵ともいえます。
また、財産の管理・承継をする方法は信託以外にもあります。
他の手段も併せて専門家に相談したうえで、あなたに合った方法を見つけましょう。
片山司法書士事務所では、他の専門家と協力してお客様のサポートをしておりますので、ぜひご相談ください。